アンティーク・プリント



アンティークの中に 「アンティーク・プリント」 というジャンルがあります。 古地図がその代表的なものですが、それ以外にも18世紀や19世紀の代表的な建築物とか、生活習慣を表わしたものなどいろいろとバラエティーに富んでいます。
ワイン関連の題材も、エッチングで個別に刷られたものや、当時のイラストを多く使った刊行物などで多く紹介されていて、なかなか興味深いものが多いのです。
ワインの愛好家や、ワイン屋さんとかワインバーの店主などが競って買いあさるので、見つけるのが至難のジャンルでもあります。 ロンドンの古地図屋さんやアンティークプリントショップなどでは、関心のあるテーマを言っておけば取っておいてくれるのが普通なのですが、ワインを題材にしたものは人気が高すぎて注文を受けてくれないほどです。 ここでは江口のコレクションの中からそのいくつかをご紹介しましょう。

1、
コルクスクリュー

そのものズバリでコルクスクリューが描かれているものというのが意外と少ないのです。 この作品は中でも代表作で、オリジナルが少ないせいかオークションでもたまにしか出ないコレクターあこがれのアイテムです。 輪郭はプリントなのですが、一枚一枚手描きで彩色されているのだそうです。

真ん中のご主人らしき男と使用人らしき2人のうち、右側の男がコルクスクリューでコルクを抜こうとしています。 地下のセラーでご主人が奥さんに内緒でワインを飲もうとしているのでしょうか。 (大体、男のすることなんていつの時代でも似たり寄ったりなのです)
19世紀半ばのプリントですが、当時の上流社会の男性は髪の毛は剃って、かつらをかぶっていたのも良く分かります。
コルクスクリューはフォールディング・ボウのようですね。

2、ブドウ作り

ブドウ畑(私はワイン畑っていう語感の方が好きなんですが、ワインは畑になってないから正確じゃないという人もいるので・・・・)の様子などもアンティークプリントで見るといろいろと興味深いことが多いのです。
たとえばこの左のプリントですが、これはイギリスの Illustrated London News という新聞に掲載されたワイン特集記事の一部です
この1849年のプリントには、イタリアはトスカーナ地方のブドウの収穫の様子が描かれています。 お父さんが脚立の上に乗って高い枝からブドウを取っていますね。
ほとんど甲州ブドウのようですが、この当時、少なくともイタリアでは低木つくりのブドウはまだ一般化していなかったということのようです。
この収穫の大変さから、ブドウの木の育て方に改良が加えられて今日のような、収穫しやすい高さに揃えられたブドウ畑ができるようになったんですね。
つい最近まで棚作りのブドウでワインを作っていた日本も、品種改良や先進的な技術の活用であっという間に世界に追いつくのも夢ではないという気にさせるような風景ですね。 (あっという間といってもこれ150年以上前の風景なんですけどね)


3、収穫期

アンティークプリントで題材にされるのは圧倒的にブドウの収穫期の風景です。 その後ワインが輸出産品になってからはヨーロッパ中から臨時労働力を集めてまで行われるようになった、ブドウの収穫の活気あふれる様子が描かれていて楽しいものが多いのです。
フランスはラングドック地方のブドウの収穫風景です。 1860年頃のプリントですが、上のイタリアのに比べてすでに低木作りになっているのはフランスの先進性なのでしょうか。 若い女性が大量にかりだされて、意外に優雅ないでたちで収穫しているところが面白いですね。
どこの国でも農業に従事する人たちにとって、収穫というのはただの作業ではなく、お祭りのような雰囲気になるんだってことが良く分かりますね。

今のラングドックに行ったってこんなに大勢のお嬢さんたちが作業してるなんてありえないですが、この頃はホントにこのお嬢さんたちが素足でブドウをつぶしたんでしょうか。
4、 ワインのたしなみ

作る方の様子だけでなく、ワインを愛好する人たちの様子もアンティークプリントでうかがえます。
これは1889年のプリントですが、カントリーハウスの庭先で、一人のイギリス紳士が最近フランスから取り寄せたワインを知り合いに自慢している図っていう感じですか。 テースティングをやってる方もそう簡単に 「おいしい」なんて言わないぞっていう難しい顔してるのが、いかにもありそうな光景で面白いですね。



5、英国のワイン

私のホームページを見ていただいた方たちの中に、ワインの本場はフランスだし、百歩譲ってもイタリア、スペインならともかく、何で英国のことばっかりがこんなに出てくるの? っていう人がいるんじゃないかと思って、英国とワインの関係をよく描いているプリントをご紹介しましょう。

フランスはボルドー地方のワインが有名になりはじめた頃、経済大国で最大の消費地だったのは英国です。 左のプリント(1875年のもの)は、上がボルドーのブドウ産地、したがロンドンにある大ワインセラーの風景です。 英国人から見ればワインはボルドーで作られてロンドンに運ばれるものって感じだったようですね。 (ルイヴヴィトンがフランスで作られ日本に運ばれるのと似てますか?) 特に、ボトル詰めというのは英国に運んで小分けにして売るというためのものだったので、コルクスクリューの話になったら、文句なく英国が本場なのです。
右のプリントは1854年のものですが、ボルドーの町の遠景です。 その後の工業化政策で、今ではすっかり工業都市になってしまったボルドーですが、当時の素朴なたたずまいが何とも言えずいいですねーこのボルドー、領主が一時は英国王室の臣下になってしまったこともあって、英国人からすると、「ついこの間までイギリスの一部だったんだよ」って感じかもしれません。 事実、英国人はボルドーのワイン産業の発展に多大の貢献をしてるんですよ。
英国人は味オンチなどというレッテルも貼られていますが、ヨーロッパの貴族階級との縁戚関係も多かったんですから、味の分かる人もいたということでしょう。